december2018

Our story

わたしたちの物語

普段は目立たない私たち冒険者のちょっとしたお話の連作(のつもり)。あなたと一緒に遊んでいるあの人やこの人も、ゲームの中では実はいろんな暮らしをしているのかもしれません。そういうのを考えながら遊んでみるのも、面白いのではないでしょうか。
著者:Carbonist

アネモス帯の日常

アネモス帯の日常

スイレンはエウレカ・アネモス帯(以後アネモス帯と呼称)へ渡航した冒険者を取材することになった。

ポート・サーゲイトはいつだって物資不足の劣悪な環境だ。日常的に竜巻や暴風が起こる異常気象のせいで、まともに物資を運んでくることも難しい。
急ごしらえのあばら屋はその異常気象のおかげでいつもみしみしと音を立てているし、食料も外部から持ち込める量はたかが知れている。
ポート・サーゲイトに住む冒険者たちの中では『ギルで食料を得ようと思うな』というのが暗黙の了解だった。

フィールド上で力尽きた冒険者はレイズもされず朽ちていくばかりだ。これは単純に助けに行けないような危険な場所、だということもある。

ここは普通の人間どころか、熟練の冒険者ですらまともに生きていける場所ではない。
どんよりした、圧し掛かってくるようなすえた死のにおいが、ここで生活する冒険者の肩をどうしようもなく重く、消耗させるのだとスイレンは思う。

でもそんな劣悪な場所だったしても、エウレカへ来る冒険者は後を絶たない。
それが冒険者だからだ。
命を粗末にするバカな人間たち、だなんてみんな分かっている。それでも未知の場所があればがあれば飛んでいってしまう。

そしてスイレンはそんな冒険者達の写真を撮り続けている。

アネモス帯の日常

「表情が暗い」

【ガーロンド・アイアンワーク製 大容量アラガントームストーン・創世内蔵型 撮影機 ※以後撮影機と呼称】のシャッターを切りながら、スイレンはぼそりと呟いた。

「もうちょっと明るい表情できないの? せっかく今日は珍しく晴れてるのに」

「そりゃ毎日焼いただけのアングラー肉ばかり食べてたら気分も上がらないって」

と、サンシーカーのアキラ・イズミはあくびをしながら言う。

今日はアネモス帯には珍しく快晴が続いていた。いつも辛気くさいポート・サーゲイトもいつもより人通りが多いし、そこら中で洗濯物が干されているのがなんだか生活感があって賑やかである。

そんないつもより活気のある広場の角で、雑誌に載せる用の写真を撮影していたのだった。

「スイレンなんか美味しい物買ってきて」
「そんなお店どこにもないでしょ」
「じゃあ獲ってきて」
「撮影機でモンスターは倒せないわよ」
「案外倒せるかも~」
「駄目です」

奥地に行けば行くほど肉のまずいモンスターしかいないのがアネモス帯だ。ドラゴンやヴォイドのモンスターの肉なんて誰が食べるというのか。

「同じものばかり食べ過ぎてそろそろドラゴンの肉ですら欲しくなってきた」
「奇怪の谷で死なないことを祈るわ」

奇怪の谷とはドラゴンが大量に生息しているアネモス帯の奥地だ。あんな危険地帯で死なれたらおそらく誰も助けに行かないので(行けないわけではない)、レイズもされずそのまま朽ち果てて完全なる死を迎えることになる。

大抵の冒険者はポート・サーゲイトから近いスクイブ浜にいるプギルやアングラーを自分で獲って食べていたりする。
アネモス帯に来るような戦闘民族は調理の心得もない者が多いので、丸焼きでかぶりつくのが主流だ。でもたまにはまともな料理も恋しくなる。

ポート・サーゲイトで活動している数少ない(変わり者のともいう)調理師からしたら「アネモス帯はめちゃくちゃ儲かる」らしい。
なんせ戦闘民族はなんでもかんでも金で済ませる傾向があるから、普通にプギルを捌くだけでもいくらでもギルが貰えるのだそうだ。

「おや、撮影会? 2~3時間後にはまた雨降ってくるから気をつけなよ~」
と、突然下の方声がした。
2人が下を見下ろすと、いつの間に現れたのか小さなピンク髪のララフェルがそこにいた。

天気予報士のミーティアだ。

ポート・サーゲイトで天気予報の仕事をしながら虹を探して回っているらしいこのララフェルはなかなかの凄腕で、ほぼ正確に24時間後の天気まで言い当てる。

「あれ、今日は虹探しには行かなかったの? せっかく晴れてるのに」
「見に行こうと思ったんだけどね、ちょっと危ない場所だったからやめたのよ。やっぱりアネモス帯で一人旅はきついわ……」

「あ、じゃあわたし行くよ~。二人なら大抵の所は回れるだろうし」とイズミが手を上げた。よほどアングラー肉以外のものを食べたいらしい。

「ちなみにどこ行くつもりだったの?」
「アネモス結晶脈にある滝」
にっこりと言い放つミーティアに対してイズミは思わず吹き出した。

「ゴメンやっぱり無理」
「だから行かなかったんだよね」とミーティアは残念そうにため息をついた。
アネモス結晶脈は奇怪の谷の西にあるアネモス帯の最奥地だ。高値で売れる良質なアネモス・クリスタルが産出するポイントだが、その分危険なため冒険者の死体が散乱していることでも有名だった。

「わたしはギルより美味しいご飯が欲しいのだ~~~ご飯~~~」
その場で大げさにじたばたしながらイズミはそんなことを言う。

「ご飯ならそこの浜にいっぱいいるわよ」
「また魚やないかーい!」

イズミはそんなツッコミをしながら、飛び上がるようにして立ち上がった。このあたりにミコッテ特有の俊敏さが見え隠れする。
時計を見ると午後3時、そろそろ今日の夕飯を調達する時間だった。

アネモス帯の日常

「今日も今日とてアングラーを食べる~」
そんな鼻歌を歌いながらイズミは浜で跳ねるアングラーを仕留めて回っていた。
スイレンはその様子を写真に撮っている。ふと空を見上げると、スクイブ浜は珍しく雲も竜巻もない良い景色だった。

「あっ、そういえば今朝の船で珍しくお酒がたくさん入ってきたんだって」

イズミが突然思い出したように言う。

「……だから美味しいご飯が欲しかったってわけ?」
「その通り♪」
「ま、たまにはいいわね。ご飯は代わり映えしないプギルとアングラー肉だけど」

言ってからスイレンは最近まったく酒を飲んでないことに気づく。アネモス帯に来てからずっとどんよりした気分だったけれど、久しぶりにちょっとだけワクワクした。

アネモス帯はひどい場所で、生活環境も悪いし、人もよく死んでしまう。でもなんだかんだで冒険者は楽しくやっている。
このエネルギーの強さは悪く言えば刹那的な危うさでしかない。でもその危うさこそが人々を魅了するのだとスイレンは思う。

【おわり】

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