february2018

Our story

わたしたちの物語

普段は目立たない私たち冒険者のちょっとしたお話の連作(のつもり)。あなたと一緒に遊んでいるあの人やこの人も、ゲームの中では実はいろんな暮らしをしているのかもしれません。そういうのを考えながら遊んでみるのも、面白いのではないでしょうか。
著者:Carbonist

冒険の思い出

冒険の思い出

空は青く、海は白い。
雲の上を、走っている。

正確には空を飛んでいるのだが、彼女はこんな高い場所を飛ぶ船に乗ったのなんか初めてだったから、雲の上を滑るようにして飛んでいる船はやっぱりそんな風に見える。それにエオルゼア間を移動する飛行船はここまで高い場所は飛ばないし、そもそもこんなに大きくはない。イシュガルドの高名な工房が作った大型飛行船で、プロテクトゥール号というらしいこの船は、彼女にとって未知の乗り物だった。

世にも珍しい雲を見下ろす景色を見ようと、広い甲板の上には沢山の冒険者の姿が見えた。彼女もその中の一人で、甲板の縁を囲んでいる手すりにもたれ掛かりながら同じように景色を楽しんでいる。しかしながら、円筒の付いた黒い箱を顔の前で構えているのは少しだけ奇妙な姿にもに見えた。これは写真機といって、ガーロンド・アイアンワークスで最近開発された「映像を記録する」というよくわからない機械である。アラガントームストーンの解析によって見つかった設計図を元に復元されたものだが、彼女は買っただけなのでそのあたりの話はよく知らない。

「こんな空の上が、イシュガルドより暖かいだなんて意外だわね」

横から話しかけてくる声が聞こえた。写真を撮るのに集中していたら、いつの間にか横に来ていたらしい。構えていた写真機を下ろして声の主を見やると、そこにいたのは研修の時に一緒になった壮年のムーンキーパーだった。夜霧のような黒に近い肌は光に照らされると鈍い銀色のようにも見えて、額には褐色レンズのでかいゴーグルが目立っていた。座学で隣に座っていて人当たりが良かったのもあり、この船が出発してからは二人はよく話す仲になっている。聞く所によると流れの甲冑師らしく、立ち振る舞いも確かにさっぱりした職人肌な人物だと彼女は感じていた。

「案外ね。漂ってるエーテルの問題らしいけど詳しくは知らないわ」
「えっ、昨日仕事の説明された時に言われたけど……スイレン、あんた忘れたのかい?」
「あー、わたしは座学あまり好きくないから……」
「……寝てたのかい?」
「へへへ、仰せの通りで……体動かす系ならすぐ覚えるんだけどね、わたし」
「はぁ〜……なんか見ててもそんな感じするねえ、いらんことして怒られないように気をつけなよ」

それを聞いてスイレンはごもっとも、とばつが悪そうに苦笑した。
冒険者のスイレン。趣味は写真撮影。短期の労働を繰り返してはいろいろな所を旅している、よくいるタイプの冒険者である。

冒険の思い出

イシュガルドが開国した後、アインハルト家による大規模なアバラシア雲海の調査と実験的な入植が始まったことは冒険者間では有名な話だった。そしてその人員に冒険者を広く募集していることも。
プロテクトゥール号がアバラシア雲海に到着後、雲海調査の拠点であるキャンプ・クラウドトップの広場で、アバラシア雲海への調査団を主催するラニエット・ド・アインハルトが今回参加した冒険者に向けて訓示を行っていた。それを聞き流しながら、スイレンはついさっき変わった天気を何となく眺めていた。周囲の冒険者をちらっと見ると、スイレンと同じように気になっているようで、目立たない程度にきょろきょろしている人が何人かいることにも気付いた。

少し強い風が頬を打ち付けるけれど、あまり冷たくはない。からっとした春風のよう。
そしてわずかに目視できる程度のやわらかい煙のような緑色の光が空を漂っていて、グラデーションのように空の青色と混ざりあっている。その影響でやや緑がかって光る太陽はとてもきれいだった。これは風のエーテルの粒子であり、このおかげで雲の上でも良質な空気が供給されて気温が下がらずに済んでいるという、ということを昨日座学をまるで聞いていなかったスイレンはついさっき教えられて知ったのだった。霊風と呼ばれるこの幻想的な天気は冒険者の中でも美しいと有名であり、スイレンもギルを稼ぐ為というよりは、この景色に惹かれて雲海までやってきた冒険者の一人だった。 あとで写真いっぱい撮ろう、とスイレンは内心わくわくしていた。少なくともこの時点では。

「うーん、来て早々に帰りたくなってきたわ……」
「おいおい初日からかい? 気持ちはわかるけど、最初の給料が出るまで頑張ったらどうだい」
「といっても、来て早々にえげつないモンスターがいる所まで水くみに行けってなかなかエクストリーム感ない?」
「ニャーン」

前をふよふよと浮かんで進んでいた空飛ぶ猫がスイレンに返事するように振り返って困ったように鳴いた。

「おーよしよし。おまえはかわいいなあ」

世にも奇妙なこの翼の生えた猫はゲイラキャットといって、猫がまだ有翼生物だった頃にいた古代種の生き残りとかいう説があるらしい。【本当に?】

「まあまずはこの雲海の環境を私らに覚えさせたいんだろうさ。あえて拠点の外にほっぽりだしてそれを実感させようって話かもね」

既に調査の拠点であるキャンプ・クラウドトップを離れて、二人は命じられるままに初めての仕事を行っていた。特に誰とチームを組んで行けという話でも無かったので、自然と二人で行動している。頼まれたのは生活用水を東の湖で確保してくるという簡単な任務だったが、地上の生態系から取り残されたこのアバラシア雲海は猛獣が跋扈するはるか古代の土地である。飼いならされたゲイラキャットを先導に、強そうなモンスターがいる地帯を隠れてやりすごしながら静かに東へとゆっくり進んでいた。

「こんなきれいな場所だから写真撮りたかったのに〜」

スイレンの持つ写真機は撮影するときに音が鳴るので、静かに行動する時に使うには不向きだ。周りを見ると大きな花がくるくる回りながら空に浮かんでいたり、見たことも無い紫色のでかいサボテンみたいな植物とか、なんだか目玉の大きい丸い猿のような見た目のあまり関わりたくない生物もいたが、とにかく地上では見られない景色だらけでスイレンは今すぐに写真を撮りたい気分だった。

「まあこれからそういう機会もたくさんあるだろうさ、今日はとりあえず水を確保することに専念しようじゃないか、仕事を果たさないと観光どころじゃないだろう?」
「はぁーい……まさかここがこんな危なそうな場所だとはぁ……」
「うーんまあ甲冑師の私にとってはそうだが、スイレン、あんたにとってはそうでもないんじゃないのかい」
「そう? わたしそんな強そうに見える?」
「あたしも兵士やら冒険者相手に商売してるからそのくらいはわかるさ。あんたの立ち振る舞いは戦士のそれだよ。歩き方とか注意の払い方とかね。あんたそこそこやるんだろう? その割に武器を持ってないし、変わってるね」
「あー……わたし、武器持ち歩くのってあまり好きくないのよね。だって基本的に嫌なやつと喧嘩する以外の用途がないでしょ。それに重いしさ」

そう武器は重いのだ。弓矢とか短剣なら別だけれど、スイレンは弓術士とか双剣ではなかった。

「だからこの写真機買うためにうっぱらっちゃったんだよね。そしたら『武士の心を売るとは何事だー!』ってすごい怒られたけど! アハハ」
「あんた、本当に変わってるね……」

そう言うと彼女は少し戸惑った表情をしたが、すぐに何かに気づいたようでに涼しげに笑った。
「ああでも、その写真機がその心と同じくらい大切なものなんだろうね、あんたにとってはさ」

それを聞いてスイレンは少し顔が赤くなった。嬉しいけれど、そういうことを大まじめに言われるととても恥ずかしいのだ。それにこの人はそういう台詞を当たり前のようにクールに言うからなんだかずるい。

「写真機が大切っていうか……なんていうか……残しておくことが大切なのかなって」
「残しておくこと?」
「だって昼の空の青さとか、夕日のまぶしさとか、夜の空の輝きとか、見ただけですっごい綺麗だって思うじゃない? そういうのをずっと残しておいて、忘れた頃に見返して思い出と一緒に思い出すのって、なんだかすごい素敵なことだと思うのよ」
「ニャーン」

また返事をするようにゲイラキャットが鳴いた。
いつの間にか足を止めて話していた二人にしびれを切らしたようだった。そして二人ともゴメンゴメンと謝って、再び湖へと向かって歩き始めた。

冒険の思い出

「なあスイレン。その写真ってのは複製できるものなのかい?」
湖に到着して背負っていた容器に水を汲んでいる途中、なんとはなしにぽつりと彼女は言った。

「できるよ? 保存した絵を専用のスクロールに焼き付けるだけだから何枚でも」
「じゃあ、あたしのことも撮ってみてもらっていいかい?」

スイレンはそれを聞いて虚を突かれたようにぽかんとした。自分を撮ってくれという人に会ったのはこれが初めてのことだったのだ。

「え、えっ、でもあたし人撮るのそんなに上手くないよ? 景色ばっかりだしさ」
「そういうことじゃない」と彼女はやれやれと首を振った。
「いいじゃないか、思い出が気軽に形になるなんて。それさえあればこの先も忘れないさ、あんたとここで仕事したことは。冒険者たるもの一期一会も大いに結構。でもこういうのも悪くないとあたしは思うよ。だからあんたの思い出にあたしも加えてみておくれよ」

そう言って彼女はまた涼しげに笑った。
ああ、この人のこの表情はなんだか様になっていて、とても好きだな、とスイレンはなんとなく思った。そして頷いて彼女に答えた。

「こんな感じでいいのかい?」

「うん、そんな感じそんな感じ」

湖の中に佇んでいる彼女を見るとなんだかミステリアスだ。白い髪につるりとした黒い肌。さっぱりした人なのに、こうして見るとムーンキーパーが幻想的な種族なんだなと思わされる。人を撮るときになると、なんだか緊張して独特な雰囲気になるなとスイレンは思った。

「準備オッケー?」
「いつでもいいよ」

「じゃあにっこり笑ってね! はい、ポーズ!」

〜おわり〜

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