june2018

Our story

わたしたちの物語

普段は目立たない私たち冒険者のちょっとしたお話の連作(のつもり)。あなたと一緒に遊んでいるあの人やこの人も、ゲームの中では実はいろんな暮らしをしているのかもしれません。そういうのを考えながら遊んでみるのも、面白いのではないでしょうか。
著者:Carbonist

梅雨の朝、名前に椅子を生やす冒険者の話

雨の日の匂いと景色は好きだと思う。
でも雨に濡れるのは嫌いだ。

白くきらめく思い出の世界

自宅の庭のベンチに座って、遠くでほの暗く光るラベンダーをぼうっと眺めながら、スイレンはなんとなくそう思った。
肌がじとじとしている。耳を澄ませると、雨の音にと虫の鳴き声に混じって遠くで滝の音が聞こえた。
梅雨の日の朝のラベンダーベッドは静かなもので、居住区の中を歩く人の気配もほとんどしない。ものぐさな冒険者は大体こんな日は昼間まで寝ているものだ。
ラベンダーベッドに家を買えるような、いわゆる成功した冒険者の中には悠々自適な生活を送っている者も多かった。スイレンもかつて冒険者として稼いだギルをつぎ込み、ラベンダーベッドに家を買った一人だ。一人で買ったわけではないが、一緒に買った仲間は何処か遠いところへ行ってしまったようで今では顔すら出さない。
いまあいつら何やってるかなー、って手紙を書こうとするけれど、なんだか面倒くさくなってしまっていつもやめてしまう。まあいつかひょっこり帰ってくるか-、なんて思っているうちに何年も経ってしまっている。こういう刹那的でものぐさな所が冒険者の悪いところだ。一期一会の人の縁といいつつ内心はただ面倒くさいだけ、っていうのが割とダサい。この間エターナルバンドに招待されて、人との縁とか思い出は大事だなーって思ってからのこれだからさらにダサい。とスイレンは漠然と思う。

エオルゼアが梅雨入りしてからというもの、スイレンはひたすら家でダラダラしている。
写真もあまり撮ってないしあまり外にすら出歩かない。これで冒険者だなんて名乗れるのだろうか。だってしょうがないじゃん、低気圧だし外はジメジメしてるし雨降ってるし家出たくないんだもん。というのが本人の言い訳。
最近は成金冒険者向けの高級家具が沢山売られ始めていることもあって、スイレンの家は割と快適だった。そのおかげでどんどん家へ引きこもるようになってしまっている。クラフターでもないのに家に引きこもり、柔らかいベッドで惰眠を貪る毎日はあまりに最高だ。ギルがなくなったらまた働けばいいのだ。

明日のことなど知らないその日暮らし、そんな冒険者たちをグリダニアの市民はそれほど良くは思っていない。グリダニアの人間は森に寄り添い、コツコツと平穏に暮らすことを好む性質であることが多い。それは森を支配する精霊の怒りを買わないようにするためだという。

スイレンに精霊は見えないし、声も聞こえない。木に向かって目をこらしても全く見えない。かつてスイレンは精霊は黒衣森の自然に宿るものだと聞いた。自然は常に私たちと共にある。声は聞こえなくても、そこにあるのだから、それでいいとスイレンは思っている。

かといって、精霊を信じる人が間違っているとは思わない。神を信じるように、彼らは精霊を信じている。信じる者がいれば、何であれそれはきっとどこかに『いる』のだ。どこかの宗教では、神は人々から忘れられたら死ぬのだという。誰か一人が信じてさえいれば、その神はきっと存在している。

なんだか難しいことを考えているとウトウトしてきて、思わず大きくあくびをする。するととても眠くなったので、スイレンはそのまま二度寝することにした。

昼からは晴れるといいな。ううん、もし雨でも何処かへ写真を撮りに行こう。さすがに毎日ゴロゴロしすぎだ。
そう自分を見ているかもしれない精霊に誓って、スイレンはベンチに寄りかかったまま目を閉じた。そして今度は夜まで寝過ごすことになるのだ。
そうして、また誰かがこっそりと名前の横に椅子のマークを貼り付けていく。

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