march2018

Our story

わたしたちの物語

普段は目立たない私たち冒険者のちょっとしたお話の連作(のつもり)。あなたと一緒に遊んでいるあの人やこの人も、ゲームの中では実はいろんな暮らしをしているのかもしれません。そういうのを考えながら遊んでみるのも、面白いのではないでしょうか。
著者:Carbonist

梅の木とヒーラーの悩み

梅の木とヒーラーの悩み

ナマイ村の南東にある垂直に切り立った崖を登ると、世にも美しい澄んだ泉と桃色の花をつける梅の樹がいくつもあるそうだ。借り物のフライング・チョコボに乗り岩壁の頂上へ登り、その隙間から鮮やかな桃色が覗いたのを確認すると、スイレンはほっと安堵の一息をついた。目的地の梅泉郷にようやくたどり着いたのだった。
始まりは友達からヤンサにいい景色が見える場所があるから行ってみたらという話を聞いたからだ。冒険者として各地を飛び回る彼女はいろいろな場所を知っている。でもなんでこんなへんぴな所にある秘境のような場所を知ってるのだろう。暇なのだろうか。おかげでここまで来るのにクガネからはるか紅玉海を越えて数日間かかってしまった。

地上に降りてチョコボから降りると、すこし遠くで誰かが岩の上に腰掛けているのに気づいた。
落ち着いたたたずまいをしたサンシーカーの女性だった。イシュガルド風のやや青みがかった白いバッスルドレスに優雅に日傘を差した姿はこの地方の景色にはアンバランスな印象に見えたけれど、不思議と異物感はなくて、よくこの景色に溶け込んでいるように見えて、絵の一部のような雰囲気を醸し出していた。それが周囲との違和感をなくしているのかもしれなかった。

彼女はスイレンに気づくと、手を振って会釈をした。近づいていくと、彼女から声をかけられた。左右に下げた金髪の三つ編みが可愛らしく揺れた。

「ごきげんよう、こんにちは」

「こんにちは。あなたも観光?」

見た目は完全にお忍びで観光に来たお嬢様だ。

「なんだか人としゃべりたくなった時はたまにここに来るの」

「えっ、ここあまり人が来るようには見えないけど」

スイレンがそう言うと彼女はふふっと小気味よく笑った。

「でもあなたはここへ来た。そして私と話しているわ?」

「え? ま、まあそうだわね」

「ウフフ、ごめんね。ちょっとからかってしまったわ。でも人としゃべりたいっていうのはホントよ。ここの梅を見に来たはいいけど、他に誰もいないものだからちょっと寂しかったところなの」

彼女はゆっくりと周囲を見渡し、つられてスイレンもその視線を追った。自分たちの声以外の音はほとんど聞こえなくて、時々鳥の鳴き声や風で揺れる草葉の音が聞こえるくらいだ。動いている物も、フワフワとウォータースプライトが泉の上を漂っているだけ。濃い桃色をした梅の花は満開で、淡い青色をした泉は太陽を反射してキラキラと輝いている。
ああここはいい場所だ、とスイレンは思った。疲れているときはこういう場所で休みたい。そして昼寝したい。

「いいところでしょう。ここは初めて?」

彼女はスイレンの気持ちを察したようにそう言った。

「うん、そうだよ。この場所って有名なの?」

「いいえ? 多分、そんなに知ってる人はいないと思うわ」

「つまりとっておきの場所」

「ウフフ、その通り。ようこそ私の秘密の楽園へ! なんちゃって」

梅の木とヒーラーの悩み

「アハ、その服でそう言われるとなんかすごい様になってるわ。不思議の国の何かみたい」

「ああ、これはよそ行きの服だから……普段は冒険者だからもっと飾りっ気のない格好してるわよ。あなたも冒険者かしら?」

「そうそう、私は冒険者のスイレンよ。趣味が写真撮影でそのために今日はここにきたの。友達に聞いてね」

「写真撮影?」

彼女はなんだかよく分からないという風に聞き返した。写真機はガーロンド・アイアンワークス社から発売されたばかりのもので、アラグ帝国のなんだかよくわからない技術を流用しているので、知らない人には全く馴染みがないのだ。

「ああー……なんかよくわからない機械を使って私たちが見てる景色を専用のスクロールに焼き付けて保存するのよ。それを写真っていうみたい。仕組みはよく知らないけど、綺麗な景色の写真を作るのがわたしの趣味なのよ」

「あら、そんなものがあるなんて知らなかったわ……でもここならその綺麗な写真を作るのにうってつけの場所じゃない?」

「ほんとそう思うわ。あ、あの梅の木なんかすごい綺麗な形してる」

そう言ってスイレンは少し先の水辺にある木を指差した。樹形がしっかり整っている満開の梅の木だ。しかし彼女はそれを見ると少し寂しそうな、悩んでいるような顔をした。

「ええ、あの木は私もすごい綺麗だと思う。でも自然にはああいう風にはならないわ」

「というと?」

「知ってる? 梅ってちゃんと切って形を整えてあげないとどんどん形が悪くなってしまうんですって。ここは毎年綺麗だから、きっと誰かが世話しているんだわ」

こんな崖の上にある場所の木を世話してる人がいるのだとスイレンは驚いた。でもそう言われるとここはすこしだけ綺麗すぎるような気がした。ただ自然というにはちょっと整っているけれど、人の手が入ったというわざとらしさもあまり感じなかった。

彼女はおもむろに立ち上がると、スイレンが指差した木に向けて歩いていった。スイレンもそれについていく。

「ほら、こことか」

彼女は木に近づき、枝の一部分を指し示した。目立たないように木の幹と同じ色に着色していたけれど、枝を根元から切った跡があった。

「秘境とは言うけど、綺麗に保つにはどうしても人の手は必要よね。それでも……木を切って美しさを保つのは正解なのかしら、ってたまに思うわ」

難しい質問だ。スイレンは少し考えるようなそぶりを見せた。

「うーん、その答えは難しいわね……だって木は喋るわけじゃないからね。グリダニアの道士みたいに自然の精霊の声が聞こえるとかならまた別なのかもしれないけれど、そうでなきゃ自分で決めるしかないことかも」

それを聞いて彼女は申し訳なさそうに苦笑して、恥ずかしそうにスイレンに背を向けた。

「ごめんね、へんなこと言っちゃったわ」

「そうでもないわ。私も言われなきゃそんなこと考えもしなかったもの」

ほんの少しだけ、無言の時間が続いた。そしておもむろに彼女は少しだけ振り向いて口を開いた。

「……ねえ、さっきわたし自分のこと、冒険者だって言ったでしょ?」

スイレンは頷いた。

「わたし、パーティの中では学者をしてて、危険なダンジョンにもよく行ってた。そこで回復や蘇生を繰り返して戦い続ける仲間を回復してるとね、私は無理矢理みんなを戦わせてるんじゃないかって……そう思った。それでこの梅の木を見ると、無理矢理美しさを保たせているように思えて、仲間と重なっちゃったのかも。とにかく、仲間に関してはそれでちょっと疲れちゃって、今はちょっとだけ一人で旅をしてるの」

「そ、そう……」

スイレンは彼女の話を聞いて内心ドキドキしていた。自分自身にもそういうことには少し心当たりがなくもなかった。

「あなたもそう思う? 無理矢理みんなを戦わせてたって」

「い、いや……そうは思わないわよ! でもなんか耳が痛いわ……わたし昔サムライやってて、前に出すぎて何度レイズとかリザレクされたかわかんないくらい蘇生してもらってたし。あのときは迷惑かけたなーアハハハハ……で、でも、ヒーラーには感謝しかなかったわよ? だからそんなに落ち込まなくてもいいと思うかなー……なんて」

話しながら少しスイレンはいたたまれなさで歯切れが悪くなっていた。過去にパーティーを組んでいた、私がケガするたびにため息をついていたヒーラーの顔が思い出される。

その様子を見た彼女は少しだけ笑ってくれた。

「フフ、ありがとう。少し楽になったわ。私のパーティのみんながそう思っているかはわからないけれど」

「いやあ普通はヒーラーには感謝しかないわよそう思う、うんそう思う。だから自信持って欲しいわ本当に」

「話し方変になってるわよ?」

「そ、そう?」

「……アハ、不思議ね、ここだとあまり普段話さないようなことも話してしまうわ。あと、あなたが私の名前を知らないというのもあるかしら」

そういえば、彼女の名前を知らなかったとスイレンはふと気づいた。

「ああー、それはあるかも」

「聞かないの?私の名前」

「名前なんて言いたかったら自分から言うだろうし。今はあまり言いたくないんでしょ?人が嫌だと思ってることはしないつもり」

「そう、ありがとう。ここでは誰でもない人でいたかったから、ね……そろそろ行くわね、話せて楽しかったわ」

そう言うと彼女は、きびすを返して歩き出した。

「あっ、一つ聞いていいかしら。梅の花が一番綺麗なのってこの時期?」

彼女はスイレンに振り向いて答えた。その表情はさっきより穏やかなものだ。

「ちょうど今日が一番綺麗だと思うわ。気に入ったかしら?」

「うん、とっても」

「それならよかった、毎年ここに来るのが楽しみなのよ。私」

「そっか。それ素敵ね」

「そうでしょ?」

彼女がそう言うと、一瞬の間が開いた。彼女がほんの少しだけ笑ったような気がした。

「それじゃあね」

「うん、またね」

スイレンの答えを聞いてから、出会ったときのように会釈して、やがて彼女はテレポで姿を消した。

梅の木とヒーラーの悩み

彼女は名乗らなかったけれど、また梅の花が咲く頃にここに来ようとスイレンは思った。
きっと彼女はまた同じように来年ここに来るのだろう。なんとなく交わしたかもしれない、吹けば飛びそうな約束を待つのもきっと楽しいことだろうと思ったのだ。

ふとスイレンは写真を撮ろうと写真機を構えようとして、やっぱりやめた。ここで写真を撮るとそれで満足してしまうような気がした。
次、彼女に会ったときにまた撮ろう。そのときはきっと彼女も一緒に。次は名前も教えてくれるかな? そんなことを考えながらスイレンは写真機をカバンにしまいこんで、昼寝の準備を始めるのだった。

〜おわり〜

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