may2018

Our story

わたしたちの物語

普段は目立たない私たち冒険者のちょっとしたお話の連作(のつもり)。あなたと一緒に遊んでいるあの人やこの人も、ゲームの中では実はいろんな暮らしをしているのかもしれません。そういうのを考えながら遊んでみるのも、面白いのではないでしょうか。
著者:Carbonist

「はいどうぞ」

「何コレ」

昼下がりのカーラインカフェには、ステンドグラス越しに柔らかなな光が差し込んでいた。友達のアリスから突然お茶に呼び出されたかと思ったら、ケーキを食べている途中に差し出されたのは一枚の手紙だ。それが何かに気づいたスイレンは目を瞬きさせてアリスを見つめた。表情を伺ってもアリスは相変わらずニコニコしている。実を言うとそれほど笑っていないように見えるのだけれど、彼女は不思議といつも爽やかな雰囲気をまとっていて、なんだか話しているといつもニコニコしているような感覚になる楽しげなサンシーカーだった。

「……あなた、エターナルバンドするの?」

爽やかな雰囲気の割に、あまり表情と行動が読めない、そんな友達である。

白くきらめく思い出の世界

白くきらめく思い出の世界

黒衣森、東部森林にあるホウソーン家の山塞、そこから北へしばらく行き、茨で囲まれた天然のトンネルを通った先にその場所はある。東部森林の奥地にある十二神大聖堂は第七霊災により大きく傷ついたが、グリダニア再興の目玉の一つとして、国家の威信を賭けて修繕がなされたため、今では霊災以前のように荘厳な雰囲気を保っていた。しかしながら修繕に莫大な費用をかけたためにその後の継続的な運営費用が足りず、今では冒険者向けの式場としてある程度広く開放されているのだった。

大聖堂の内部はとても賑やかで、沢山の着飾った参列者たちがが新郎新婦の登場を待ちながら思い出話に花を咲かせていた。そんな会場の隅の方で、スイレンは参列者達の姿をひたすら写真機を構えて撮影していた。

「写真機ってどんなものかなって思ったけど、そんなに重そうなものなのねえ」

私じゃないって。友達がエターナルバンドするんだけど、カメラマンがほしいんだってさ。ついこの前そんなことを言いながら、スイレンに招待状を手渡したアリスは隣の椅子でくつろぎながら、ついさっき給仕が配っていた、ワイングラスに入った高そうなジュースをチビチビと飲んでいる。いつも戦うための服を着ている冒険者にはめずらしく、珍しく薄い緑のお洒落なワンピースを着てグラスをあおるその姿は慣れたもので、どこか胴に入っているように見えた。

「ねえねえ、エターナルバンドなんてわたし参列したことないし、急いで準備してきたら忘れてたけど、なんかお祝いとか持ってこなくてよかったのかしら」

「そもそもカメラマンなんだし大丈夫じゃない? むしろわたしたちの方がなんか引き出物貰えるんじゃないかな。ホラ、見たことない? お誕生日箱みたいなのから飛び出るスプリガンのおもちゃ」

「ああー……なんか見たことあるような……」

言われてみると、スイレンはそんなミニオンを後ろに引き連れて歩いている冒険者をたまに見たことがあるような気がした。

「わたし何度もエターナルバンドの招待状もらってるから、もう家にそのおもちゃ五個くらいあるよ」

「なんかすごい説明しづらいけどそれはそれでどうかと思う」

なんだろう、それを絶対に渡さなきゃいけないルールでもあるのだろうか。スイレンはなんだか自分のあずかり知らぬところで大いなる意思が働いているような気がしたが、考えても意味が無いような気がしてそこで考えるのをやめた。

白くきらめく思い出の世界

「こういう場所には初めて来たけどさ、エターナルバンドって結婚とは違うのかなあ」

言いながら、スイレンはカメラを構える手を止め、周囲をぐるりと見渡した。先ほどから気づいてはいたが、親も兄弟も誰も参列していないのは通常の結婚式とは大きな違いのように思えた。呼ばれているのはフリーカンパニーのメンバーや新郎新婦の友達ばかりだ。冒険者は過去を語らないという。それは単純に語りたくない後ろ暗い過去を持つ冒険者も多いからだ。過去を断ち切りたいから冒険者になったとも言える。
スイレンが切り出した何でもない話題だったが、アリスは意外にもそれに対して少し長い時間、神妙な顔をして考えるそぶりを見せた。

「アリス?」

「……うーん。結婚は契約だけど、エターナルバンドはただの誓いっていうよね。だから法での中で夫婦として認められているわけではないというか」

アリスはそこで言葉を選ぶようにして一呼吸置いた。

「わたしの考えだけど」

いつの間にかアリスのワイングラスの中身は空だ。

「うん」

「……わたしたち冒険者は約束はできない。もしかしたらどちらか明日死ぬかもしれない。でもこの先の未来に希望を持つことは出来るんじゃないかな。そんな希望を本当にするために誓う、って考えるとほんの少し素敵だよね」

ほんの少しだけ自分に言い聞かせるように彼女は言った。彼女らしくない、祈りにも似た硬い表情をスイレンは一瞬だけ垣間見た。アリスは冒険者の中でも最前線の危険地帯で戦っている白魔道士だ。自分がいつ死ぬかも分からないし、傷ついた人間を何人も救ってはきたが、同じくらいパーティの仲間の死を何人も看取ってきたという。その経験から少し思うところがあったのかもしれない。いつもの爽やかな雰囲気はその裏返しかともふとスイレンは思ったが、それを問うのは野暮なことだ。誰にでも秘めたい思いがあるものだとスイレンは知っている。血なまぐさく戦うことはとうにやめてしまったけれど、彼女もまた冒険者だった。

「ま、冒険者なんて戦いたいし危険なことがしたいからみんなやってるんだろうけどね、わたしだってそういうところあるし。いつ死ぬか分からない刹那的な環境に自分から飛び込んでおいて、未来への希望を持つっていうのもなかなか分不相応なのかもしれないよね」

そう言ってアリスは自嘲気味につぶやいた。それは多くの戦う冒険者が抱える思いでもある。

「まあ別に希望を持つのは悪くはないと思うわよ」

「そう?」

「別に戦うのは悪いことじゃないし、楽しいならそれはそれででいいじゃない」

「そうかしら」

「きっとそうよ。クラフターやギャザラーだけじゃ世の中回っていかないんだし、誰にだって希望を持つ権利くらいはあるでしょうよ」

この世界はきっとそういうものだ。いろいろな形で生活をしている人たちがいるけれど、決して誰が優れていて、劣っているなんてことはなくて、きっと誰でも簡単に夢や希望を見られる、そんな場所なのだと。

「……そっか、そうかもね」

そう言ってアリスは薄く笑みを浮かべた、その表情を見ると、いつも通りの爽やかな雰囲気を醸し出していた。

「おっと、そろそろ主役が入場してくるみたい」

白くきらめく思い出の世界

聖堂の入場口付近がざわざわしているのが聞こえてきた。新郎新婦の入場の合図だ。

「あっそうだ話してないで準備しないと」

スイレンはあわてて下ろしていた写真機を構えながら、青色のヴァージン・ロードのすぐそばに陣取った。写真機を正面の入場口に向けて構えた。やがて、幸せそうな笑顔を湛えながら、新郎新婦が純白のドレスとテイルコートを身に纏い、皆に祝われながら入場してきた。

冒険者が汚れることもない白い服を着るなんて、一生に何度あるだろう?
撮影しながらスイレンは漠然と、自分はこの光景を一生忘れることはないだろうと思った。アリスはさっきああ言ったけれど、エターナルバンドにはそれに加えてまた別の意味があるような、そんな気がしたのだった。

我々はきっと仲間の思い出と記憶の中で強く光を放つために冒険者になったのだ。たとえ明日死んだとしても、いつかどこかで自分の存在を生かしておけるのなら、生きた意味もあるだろうと。

あなたはなぜ冒険者になったのだろう。この世界でどのように生きているのだろう。どんな人と仲良くなって、誰と一緒に冒険に出かけるのだろう。たぶんフリーカンパニーやリンクシェルに入って、いろいろな人との出会いがあるのだろう。やがてハウジングを買ったり、いつか仲のいい人とエターナルバンドをしたり。

そんな姿を私は撮ろう。あなたがいつかここからいなくなったとしても、いつかどこかで、あなたを知っている誰かがあなたのことを思い出せますように。

〜おわり〜

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