november2018

Our story

わたしたちの物語

普段は目立たない私たち冒険者のちょっとしたお話の連作(のつもり)。あなたと一緒に遊んでいるあの人やこの人も、ゲームの中では実はいろんな暮らしをしているのかもしれません。そういうのを考えながら遊んでみるのも、面白いのではないでしょうか。
著者:Carbonist

わたしたちが武器を置いたあとに

クルザス西部高地には常に冷たい空気が張り詰めている。わたしはこんな身を切るような澄んだ空気が好きだ。
なぜ?
多分北部森林の故郷の空気に近いからだろう。
たまらなく熱くなった時なんかはクルザスまで行きたくなる。
みんなもそんなことはない?
真夏日に真冬の気温が恋しくなる、とか。ちょっと戦うことに疲れちゃった時、とか。

わたしたちが武器を置いたあとに

光の英雄の働きによってクルザス西部高地の交通が解禁されたのがもうずっと前のことのようだ。以前はたくさんの冒険者で賑わっていたファルコンネストも、今では静かな城塞を取り戻している。

「どうして冒険者を辞めようと?」

空を見上げると珍しく雪は降っていなくて、星空が瞬いていた。
風の吹く音だけが聞こえる深夜、スイレンは何気なくそんなことを聞く。
喋ると口から白い吐息が漏れるくらいには寒い夜だ。
横にいるのはどこか陰のあるアウラ・レンの女性だった。アウラ・レン特有の角と白磁色の肌は彼女たちの存在をよりミステリアスに感じさせる。エレゼンやヒューランにはない、瞳を囲う発光した輪郭が無機質にスイレンの表情を捕らえていた。

「もう疲れたっていうか。冒険者であることに疲れてしまったの」

彼女はそんな風に弱々しく笑いながら言った。話を聞くとパーティから衝動的に抜けてしまい、当てもなく旅をしている間にファルコンネストへたどり着いたようだった。酒場でたまたま一緒になり、飲み過ぎたので夜風に当たろうと二人で外に出てきたのだ。

「あっわかる~。なんか戦ってばかりだと自分が何者かよくわからなくなるもんね。私も冒険者それでやめちゃったし」

スイレンは既に冒険者をやめている。正確には武器を持ってモンスターと戦う稼業を、である。今では武器を売り払ってカメラ片手にエオルゼアを旅する日々だ。

「でも、実際の所言うとまだ辞めようか迷っているわ。冒険者をやめたら、わたしには何も残らないなんて、そんなことを思ってしまう」

冒険をしなくなった冒険者には一体何が残るんだろう? 誰しもそんなことを思う時がある。なにかしらの伝説を残した冒険者なら気軽に武器を置けるのかもしれない。でもそうでなければ、私たちには一体何が残るのだろう?

「わたし、酔ってるかしら?」
「とっても」
「不思議ね。みんなで冒険してた時はあんなに薦められてもお酒なんてそんなに飲まなかったのに、1人になった途端寂しくなって飲みたくなるだなんて」

わたしたちが武器を置いたあとに

アウラ・レンの彼女は何とはなしに空を見上げて、自嘲するようにそうつぶやいた。
冒険者は孤独だと思っていた。でもそんなことはなかった。実際は色々な人が自分の周りにいたのだ。だからこそ冒険者を辞めたら、きっと仲間達や、良くしてくれるみんなだってすぐにいなくなってしまうのだと思ってしまう。

「冒険者でないわたしに価値なんてあるのかしら?」
「わからないわね」

スイレンはにべもなくそう返した。人の価値なんて誰がどう決めるのだろう。神様?

目の前の彼女と同じようなことを、スイレンはかつて考えたことがある。

昔は有名になりたかった。
伝説に残るような何かをしたかった。
それこそ生きている価値のような何かが欲しかったのかもしれない。
でも挫折して。武器を置いて旅を続けるうちに、強いモンスターと戦わなくてもわたしをわたしと認めてくれる人はいて。
みんなに認められるのは無理だけれど、身近な誰かはきっとわたしを見てくれていると気づいたのだ。
するとスイレンの重かった肩の荷がすっと下りた。
自分の人生に対してホッとしたのは、それが初めてかもしれなかった。

「価値があるかはわからないけど、冒険者をやめたってあなたを認めてくれる人はきっといるわよ」
「本当にそうかしら」
「だって冒険者をやめたって、それまで出会った人達との縁がなくなるなんてことは絶対にないもの。なるようになるわ」
「じゃあこれから何をしようかしら」
「うーん、釣りとかしてみたら? あれはあれで結構楽しいわよ」
「なにそれ! 適当なのね」
彼女がおかしそうにころころと笑った。アウラ族が笑うところはあまり見たことがなかったけれど、こうしてみるとミステリアスというイメージは偏見に近いものだと気づく。

「実際、そのくらい適当に構えておくくらいのほうが丁度いいんじゃないかな」

あなたは戦っても、戦わなくてもどちらでもいいのだ。戦闘が辛くなったら採掘をしたり釣りをしたり、物を作ったり、家の模様替えをして暮らしてもいい。戦わなくてもきっとこの世界で楽しく暮らしていける方法はいくらでもあるのだから。

だから、辛くなったらいったん足を止めてみることくらい、誰も怒らない。

そう言って、スイレンはにっこりと笑うと、彼女はまだばつが悪そうなぎこちない笑いを返すのだった。

そのあとは2人で寒い中とりとめのない話をしながら夜空の星を眺めたり、オーロラを見つけてはしゃいだり、今まで彼女がやらなかっただろうとりとめの無いことをしていたら、いつの間にか夜が更けていった。

わたしたちが武器を置いたあとに

次の日、スイレンが起きて宿屋の受付へ行くと、既にチェックアウトした彼女からの置き書きを渡された。
走り書きしたようだが、それでも綺麗な字で書かれていたので彼女はきっと几帳面な性格だったのだろうとスイレンは思った。

内容を読むと、1度パーティメンバーの所に戻り、自分の気持ちを話してみるといった旨のことが書いてあった。彼女なりに勇気が出たのかもしれない。

『昨日はありがとう。みんなきっと心配しているだろうから。1度ちゃんと話します』

最後には『あなたも頑張って』と締めくくられていた。

彼女はそんなつもりはなかっただろうけれど、その言葉はスイレンの胸にささやかな痛みを残した。

スイレンは自分が冒険者を止めたときのことを思い出す。スイレンも彼女と同じようにパーティメンバーに何も言わずに冒険者をやめ、出奔してしまったのだった。それからというもの、元パーティメメンバーとは会っていないので、どこか後ろめたい気持ちがあることは事実だ。

「いったん足を止めてみることくらい、誰も怒らない。か……」

昨夜自分で言った台詞を反芻する。自分のことを棚に上げているのだから笑ってしまう。
久しぶりにかつての仲間に会いに行ってみようか。スイレンはそんなことを思いながら宿屋を出た。

扉を開けると太陽の光が身体全体に差し込み、つい瞳を瞬きする。昨夜と同じように、今日のクルザス西部高地は快晴だった。

(おしまい)

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